市川喜一著作集 > 第16巻 対話編・永遠の命U > 第25講

附 論 

       「もう一人の弟子」の物語 


       ―― ヨハネ文書の成立について ――

「附論」について

 本書はヨハネ福音書の講解を本論としていますが、このヨハネ福音書の成立は新約聖書における大きな謎の一つです。本論においては、この福音書の成立の謎には深入りしないで、現形の福音書を講解することに専念してきましたが、その講解の過程においても、この福音書を生み出した共同体の状況に起因すると見られる複雑な編集過程が垣間見られました。この共同体(ヨハネ共同体)の歴史を正確に再現することは不可能ですが、資料から推察することができるかぎり、この共同体の歩みと、そこから生み出されたこの福音書と書簡の成立過程に迫ってみたいと思います。その追究の内容を附論として収め、この共同体の告白であるヨハネ福音書と、その歩みの証言であるヨハネ書簡の理解に、少しでも貢献したいと願います。
 この附論は、次の四つの章から成ります。

第一章 「イエスが愛された弟子」と長老ヨハネ
  福音書に出てくる「イエスが愛された弟子」と、共同体の指導者であった長老ヨハネとの関係を追究します。

第二章 長老ヨハネと福音書
  共同体を指導した長老ヨハネの証言が福音書を形成していった過程を追究します。

第三章 長老ヨハネとその共同体
  ヨハネ共同体の性格と、共同体に起こった諸問題に対処した長老の姿を追究します。
  ここに第二書簡と第三書簡の略解が含まれます。

第四章 長老ヨハネの遺訓 ― ヨハネ第一書簡の講解
  共同体の分裂という危機にさいして書かれた長老の第一書簡を、長老ヨハネの遺訓という視点から講解します。