序章 使徒名書簡
第一節 エーゲ海地域における福音の進展
パウロの福音活動の地域
パウロがアンティオキア集会を離れて独立の福音活動を始めてからエルサレムで逮捕されるまでの僅か七年ほどの間に、パウロはエーゲ海を巡る地域の主要な都市に福音を伝え、キリストを信じる民の集会を形成しました。その前半では、ガラテヤなど小アジアの内陸部から、マケドニア州のフィリピ、州都テサロニケ、ベレア、さらにアカイア州の州都コリントに至るまで、エーゲ海の北岸から西岸を巡り歩いて、福音を宣べ伝えました(いわゆる「第二次伝道旅行」)。コリントから一度エルサレムの聖徒たちを訪問してアンティオキアに戻りましたが、この短期のエルサレム・アンティオキア滞在を挟んで、後半では小アジア内陸部の高地を通ってアジア州の州都エフェソに到着、このアジア州の州都に二年余り滞在し、そこを拠点としてアジア州の諸都市に福音を伝える活動をしました(いわゆる「第三次伝道旅行」)。エフェソの歴史とパウロの時代の状況については、拙著『パウロによるキリストの福音V』24頁の「エフェソの歴史と宗教」の項を参照してください。
パウロ以後のアジア州諸集会の展開
パウロがその宣教活動の最後の時期に、二年数ヶ月もエフェソを拠点としてアジア州に伝道をしたことにより、州都エフェソ周辺のアジア州各都市にキリストの民の集会が形成されました。パウロなき後も、パウロによって設立された集会と弟子たちの活動により、一世紀後半にはアジア州におけるキリストの民の交わりは拡大し、多くの都市にキリストの民の群れが存在するようになります。パウロ文書(パウロ書簡とパウロの名による書簡)と、一世紀末に書かれたとされるヨハネ黙示録と、二世紀初頭に書かれたイグナティオスの書簡に出てくる都市名を合わせると、一世紀末のアジア州(およびその近隣)には以下の諸都市にキリストの集会があったことが分かります。先ず州都エフェソ、その近辺のマグネシアとトラレス、リュコス渓谷に沿って東に入ったラオデキア、コロサイ、ヒエラポリス、東北の山地に入ったサルデス、フィラデルフィア、ティアティラ、エーゲ海に沿って北にあるスミルナ、ペルガモン、トロアスなどです。名前が挙げられていない都市も多くあったことでしょう。