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まえがき

  本書は、著者が各地の集会で行った福音講話を要約筆記した文章を集めた講話集です。すでに、その講話の中から選んで「キリスト信仰の諸相」と「神の信に生きる」と題する福音講話集を二冊出版しましたが、今回、福音講話集の第三編として本書をお届けします。この三冊で、これまでの著者の福音講話がすべてまとめられることになります。
 先の講話集「神の信に生きる」がおもに福音書から主題をとっているのに対して、本書はおもに使徒書簡から主題を得ています。しかし、その区別は厳密ではありません。書名および書名となった序章の講話が示しているように、本書は著者の福音理解と伝道活動の基本的な姿勢を語る講話集になっています。まず、序章の「教会の外のキリスト」を読んでから本論へ進んでいただければ、理解しやすいと思います。

 本書は序章と終章の間に、T〜Wの四部を置く構成になっています。はじめに各部の主旨を述べておきます。第T部と第U部の各講話は独立していますので、どの講話から読み始めていただいてもかまいません。第V部と第W部の三講は連続講話ですから、続けて読んでくださることを前提にしています。

 序章「教会の外のキリスト」は、これから信仰を求める方々のために、キリストの福音と教会の関係を、著者の立場からできるだけ易しく説明して、信仰の助けになるように書かれています。
 第T部「神の民の形成」は、キリストの福音を受け入れて、キリストに属する者たちの群れとして形成される民は、どのような内容の信仰をもっているのかを語る講話を集めています。各講話は独立していますから、どういう順序で読んでいただいてもかまいません。ただし、「5 キリストの血による恵みの契約」と「6 キリストの霊による自由の契約」の二講は、「キリスト契約の諸相」と題して行われた一九九九年の夏期特別集会の二回の講話を要約筆記したもので、連続しています。
 第U部「神の民の歩み」は、福音を信じて受け入れた者が、キリストに属する者として生きるさいの具体的な姿について、おもに使徒書簡の言葉を用いて語っています。第T部と第U部の境界は厳密ではありません。どちらに入れてもよいという講話もかなりあります。
 第V部「死人を生かす神」は、一九八八年の小諸市の石垣会で行われた特別集会での連続講話です。この連続講話は、1「聖書と復活」、2「創造と復活」、3「十字架と復活」の三講で構成され、聖書的信仰の基本は復活信仰であることを語っています。この連続講話は、一九八五年の夏期特別集会でなされた聖書講話「救済史の構造」(拙著『神の信に生きる』所収)を、易しく語り直した内容になっています。
 第W部 ローマ書による「新しい人間」は、一九八七年の夏期特別集会での三回の講話の要約筆記です。新約聖書の中でもっとも体系的にキリストの福音を提示しているとされる使徒パウロの「ローマ書」(その前半の八章)を用いて、キリストに合わせられて生きる人間は、今までこの世界になかった新しい質のいのちをもって生きる「新しい人間」であることを語っています。ローマ書(前半)の論述に従って、1「信仰によって生きる人間」、2「キリストに合わせられて生きる人間」、3「神の霊によって生きる人間」の三回に分けて講じられています。これはローマ書の講解ではなく、ローマ書によって現実の人間を理解するための講話です。ローマ書テキストの詳しい解説と講解は、近い将来出版する予定の拙著『ローマ書講解』(仮題)に譲ります。
 終章「キリストの絶対性とキリスト教の相対性」は、最近の宗教世界の情勢を見て、日頃考えていることをまとめ、本書の締めくくりの章とするために書き下ろしたものです。これは福音講話という性格のものではありませんが、本書で展開した著者の福音理解の行き着くところであり、これからの世界の中でどのような方向にキリストの福音を確立してゆくのかを考える上での一つの提言です。

 以上の福音講話は、いずれも著者の個人福音誌「天旅」とキリスト福音会の福音誌「アレーテイア」に発表された講話の要約を集めたものです。発表の福音誌と日付はそれぞれの講話の末尾に記しておきます。
 このささやかな福音講話集が読者のお一人ひとりの信仰の歩みに役立つことを祈って、お手元にお届けします。

   二〇〇四年 一月
                    市 川 喜 一

聖書の引用は原則として新共同訳聖書からですが、協会訳を用いている場合もあり、混在しています。
どちらを用いているかは、とくに問題がない場合は明示しません。一部私訳を用いる場合は、その旨明示します。