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まえがき

 今世界に広く行き渡っている聖書は、旧約聖書と新約聖書という二つの部分から成り立っています。旧約聖書というのは、イスラエルの民の聖なる宗教文書で、その民が神との関わりの中で歩んできた歴史の記録であり、おもにその民の言語であるヘブライ語で書かれています。それに対して新約聖書は、今から二千年ほど前にそのイスラエルの民の中に現れ、三十年ほどの短い生涯を十字架上で終えたイエスを、神が復活させて世界の救済者キリストとされたことを信じる民が、その信仰を証言した文書を集めたもので、当時の共通語であったギリシア語で書かれています。

 本書「真理の霊が来るとき ー復活者キリストを証言する新約聖書」は、新約聖書が世界に向かって証言し、かつ告知する「復活者キリスト」を、その生涯において体験した現代の一日本人が、その「復活者キリスト」の姿をできる限り簡潔にまとめて、日本語を用いる方々諸氏に伝えようとして書かれた小著です。

 著者は若き日にイエス・キリストを告知する福音に接し、初めて聖書を手にした者です。以来半世紀を超える年月にわたって、「福音とは何か」という課題を追求し、そのキリストの福音が与える現実を証言する活動に携わってきました。新約聖書が証言する「復活者キリスト」の現実(リアリティー)は、キリストを告知する福音を信じてキリストに従う者に賜る聖霊によって体験される現実です。その過程で、新約聖書の各文書の講解やその神学の追究に関する著作を発表してきましたが、今般キリスト教団出版局から、その成果を小著にまとめて刊行する運びとなりました。この著作では、おもに復活者キリストと聖霊に焦点を当てながら、新約聖書のテキストをたどることになると思います。

 このささやかな著作が、読者のお一人ひとりに神からの祝福となることを祈って、お手元にお届けする次第です。

   二〇〇二年 四月
                    市 川 喜 一