市川喜一著作集 > 第30巻 > あとがき

あとがき

  以上、新約聖書がわたしたちに告知する復活者キリストや聖霊とはどういう現実であるのか、その復活者キリストはわたしたち人類共同体にとって何を意味するのかを十章にまとめてみました。それはこのような小著で扱うにはあまりにも大きな問題ですが、日本の読書人が新約聖書の世界を理解するための一つの視点を提供して、聖書の世界、信仰の世界を追求されるさいの一助になればと願い、筆をおきます。

 著者は今年九十二歳になります。二十代のころから福音を証言する活動を始め、六十数年の間に、その福音の証言と新約聖書探求のための大小の著作を三十冊近く発表してきましたが、その最後の段階でこのような全著作の内容を凝縮して要約する小著にまとめる機会が与えられたことを、主の御導きとして感謝しています。

 思えば古都京都のごく普通の市井の庶民の家庭に生を享け、現代社会の通例の教育課程の中で育った者が(わたしは法学部の出身です)、生涯を新約聖書の探求に捧げることになるのは、人の思いを超える神の配剤と導きがあったとする他はありません。

 わたしはすでに新約聖書研究の著作二十四巻を「著作集」として刊行していますが、その後にも、その活動を要約するような小著を刊行してきました。そして今ここに現在の新約聖書理解をまとめる小著を刊行できることを主に感謝します。

 そして、この本の刊行にさいして、物語り的聖書論に取り組み、多くの秀(すぐ)れた著作を出しておられる宮本久雄先生が、本書の意図するところを適確に指し示す「真理の霊が来るとき ー 出会いのカイロス」をお寄せくださったことに深く感謝します。カトリックの流れにある宮本先生が、無教会的な流れにある私が著すものにご理解をお寄せくださったことは、「福音」がキリスト教の教派の歴史を超えたものであり、聖霊の照らしが普遍的であることを示していると言えます。またこの書の刊行にご尽力くださいました日本キリスト教団出版局の皆さま、とくにこの書の編集を担当してくださいました加藤愛美氏にお礼を申し上げます。

 なお、わたしの全著作は著作集として刊行すると同時に、インターネット上に公開しています(本書を除く)。どなたでも次頁以下に案内している著作を「天旅ホームページ」上で読むことができますので、ぜひお読みいただくようお待ちしています。

   二〇二二年 二月
                    市 川 喜 一