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36 神の民の創造 

「あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなたがたを選んだ」。

(ヨハネ福音書一五章一六節)


 先に(曙光34で)、すべてを創造される神は終わりの日には救いを創造されるという告知を聴きました。創造とは、存在しないものを存在させる働きです。世界には様々な力が働いています。その多くは人間を苦しめる働きをしています。人々はその悪の働きを避け、その結果から逃れるために様々な工夫と努力をしてきました。宗教もその工夫と努力の一つです。人間の力とか理解が及ばない「聖なるもの」の働きにより頼む人間の営みです。世界には宗教が溢れています。
 このような世界に、福音はある神の救いの働きを告知します。その神とは、昔アブラハムを選び、その子孫をご自分の民として、その民イスラエルの中に働いてこられた神です。その働きの極点としてイエス・キリストを復活させた神です。そのキリストによって世界の救いを創造された神です。その神が選ばれた神の民は、世界の歴史の中で巨大な勢力となった民ではなく、片隅に生きたごく小さな民であったために、その神は世界に知られていませんでした。しかし今や、イスラエルの民の中に働き、キリストにおいてその働きの目的を遂げられた神が、福音によって世界に告知されています。
 福音は多くの神々の中の一人の神を告知するのではなく、キリストにおいて成し遂げられた救いの働きそのものを告知します。その働きの主語が神です。働きは名付けることはできません。その働きの主体を「神」と呼んでいるのです。その神、すなわちキリストにおいて世界の救いを成し遂げられた神は、アブラハムを選び、その子孫を自分の民として創造し、その民の中に働かれた働きです。そして今は、福音によって召されてキリストのものとなった民を、ご自分の民として創造し、その中に働かれる神です。わたしたちはその働きの人格的な主体を神と呼び、その方の愛と信実を賛美し、感謝し、信頼して生きています。
 神は生きておられます。神は死んだ方ではありません。永遠に生きて働く働きです。この告白は、神の働きを体験した神の民の告白です。その体験は聖霊の働きです。天地の万物を創造された神は、地上に、歴史の中に、その働きを受けて証言するご自分の民を創造されました。神はご自分の民を地上に創造し、保持し、導いておられます。われわれは選ばれて、神によって創造された神の民です。