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31 キリストを復活させた神

 あなたがたは、キリストを死者の中から復活させて栄光をお与えになった神を、キリストによって信じています。

(ペトロ第一の手紙 一章二一節)


 わたしたちが信じる神は、キリストを死者の中から復活させた神です。正確にいうと、イエスを死人の中から復活させて、世界の主(キユリオス)また救い主としての栄光を与え、キリストとされた神です。復活節はこの出来事を祝い、この神を賛美する祝祭です。
 ところがこの神を信じて賛美しているのは、世界のすべての人ではなく一部の人たちです。なぜでしょうか。それは、この神は「キリスト(の働き)によって信じる」ことができる神であるのに、キリストの働きがすべての人に及んでいないからです。キリストの働きがすべの人に及ばないのは、キリストがまだ告げ知らされていないか、告げ知らされていても拒否しているからです。キリストが福音によって告げ知らされるとき、その福音を信じる者にはキリストが働いて、死者を復活させる神を信じることができるのです。
 わたしたちは「キリストにあって」キリストの働きを受け、キリストを復活させた神を信じることができました。この神は、キリストにある者を「新たに生まれさせて」、すなわち上より賜る別種の命によって、死を克服する希望に生きることができるようにしてくださいます。すべてはキリストという場における聖霊の働きです。
 わたしたち人間は実に多くの神々を拝んできました。しかしその中には現実に人を死者の中から復活させた神、その神を信じる者に復活を約束する神はありませんでした。わたしたちはキリストの福音の告知によって初めて、その福音を信じる者に働く神の力によって、キリストを復活させた神、信じる者を復活させる神を知って、その神を信じるに至ったのです。
 キリスト、すなわち人類の救済者を死者の中から復活させた神は、特定の宗教の神、キリスト教だけの神ではありません。どの宗教の民もこの神を信じて、死を克服する希望に生きるようになることができます。そうなれば、同じ神という語を使っていても、キリストを復活させ、その働きによって信じる者を復活の希望に生かす神と、それ以外の神々や宗教的礼拝の違いが解るでしょう。キリストを死者の中から復活させた神、主イエス・キリストの父なる神への賛美と礼拝の中に、人間の宗教的憧憬と追求が満たされていることを知るに至るでしょう。