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まえがき

 わたしは『市川喜一著作集』において新約聖書の全文書の講解を志し、これまでにルカ二部作(ルカ福音書と使徒言行録)を除くすべての文書の講解を終え、著作集に入れることができました。同じく「講解」といっても、ギリシア語原文からの翻訳と一節ごとに詳しく講解したものから、段落ごとに簡単な要旨を解説しただけものまで、詳しさの程度は様々ですが、昨年の『対話編・永遠の命 ― ヨハネ福音書講解U』の刊行をもって、一応ルカ二部作以外は全文書の講解を完了しました。
 ルカ二部作を最後に残したのは、ルカ二部作が新約聖書の諸文書の最後に位置すると見ているからです。成立年代からすれば、ルカ二部作よりも後に書かれた文書があるかもしれません。しかし、最初期のキリスト告知の流れにおいて、新約聖書の主要文書の中でルカ二部作が最後に現れて、その時代の様々な流れを統合し、次の時代に引き渡して行く連結器のような位置にある、とわたしは見ています。
 それで、他の新約聖書文書の講解をすべて終えた二〇〇八年から、わたしの個人福音誌『天旅』に「ルカ福音書講解」と使徒言行録を扱う「福音の史的展開」を並行して連載することになり、現在進行中です。その中で「ルカ福音書講解」の方は、三部からなるルカ福音書の第一部が本年六月に完了しましたので、これをまとめて『ルカ福音書講解T』として刊行することにしました。ルカ福音書の第二部と第三部は、それぞれ『ルカ福音書講解U』と『ルカ福音書講解V』として刊行する予定です。全部の完成までには、まだ四年ないし五年はかかることと思います。わたしは一九三〇年生まれの八〇歳直前、立派な「後期高齢者」ですので、いつ何が起こるか分かりません。しかし、このような願い、あるいは志を内に起こしてくださった主が、その限りない恵みで支えてくださることを信じて、まことに遅々とした筆ですが、日々執筆に励んでいます。第二部と第三部の講解はいましばらくお待ちくださるようにお願いします。
 ルカ福音書だけでなく、使徒言行録を含むルカ二部作の成立事情を解説する「序論・ルカ二部作の成立」を最初に置いて、ルカ福音書講解への導入(イントロダクション)としました。この序論は、来年から刊行予定の「福音の史的展開」で扱います使徒言行録への導入を兼ねています。それにはこの序論は、重複を避けるため載せない予定ですので、使徒言行録への序論としてもお読みいただきますようにお願いします。
 では、このささやかな労作が、読者の皆様の聖書理解と信仰に役立つように、主がお用いくださることを切に祈って、お手元にお届けします。

二〇〇九年 八月
               京都の古い町並みの中から
                    市 川 喜 一