市川喜一著作集 > 第14巻 パウロ以後のキリストの福音 > 第26講

附 論 公 同 書 簡 か ら 

はじめに ― 「公同書簡」という名称について

 新約聖書には、一般に「公同書簡」と呼ばれる書簡が七つ収められています。正典の新約聖書の順序では、「ヤコブの手紙」、「ペトロの手紙T」、「ペトロの手紙U」、「ヨハネの手紙T」、「ヨハネの手紙U」、「ヨハネの手紙V」、「ユダの手紙」の七つの書簡です。この七つの手紙には、特定の集会や特定の個人を指す宛先がなく、広く信徒一般に宛てられた手紙と見なされて、「公同書簡」(英語では Catholic Epistles )と呼ばれています。
 しかし、この七つの書簡は、その内容とか性格からすると、一つの名前の下にまとめて扱うことは困難です。三通の「ヨハネの手紙」は明らかにヨハネ共同体内部でやりとりされた手紙ですから、広く信徒一般に宛てた文書とは言えません。「ヤコブの手紙」や「ユダの手紙」は、ユダヤ教の枠内でのキリスト信仰の文書であって、他の異邦人諸集会に宛てられた書簡とは、あまりにも性格が違いますので、他の使徒名書簡と一まとめにして扱うことはできません。それに対して小アジアの諸集会に宛てられた「ペトロの手紙T」は、もともとはアジア州の諸集会あての回状であったと見られるエフェソ書と同じく、パウロ以後の時代の重要な使徒名書簡の一つです。
 したがって、本著作集ではこの七つの書簡を一まとめに扱うことはせず、できるだけそれぞれの成立事情と内容に即した場所で扱うことにします。三通の「ヨハネの手紙」は、ヨハネ共同体の文書として、ヨハネ福音書を中心とする「ヨハネ文書」を扱う巻で取り上げます。「ペトロの手紙T」は、その成立の事情と内容からすると、他のパウロ名書簡と同列に、「パウロ以後のキリストの福音」シリーズで扱うのが適切と考え、本書の本論で取り上げました。残る三つの中、「ヤコブの手紙」と「ユダの手紙」は、ユダヤ教の枠内でのキリスト信仰の文書として、この「パウロ以後のキリストの福音」シリーズには入らない別種の文書になります。それで、本来ならば別の巻で扱うべきですが、本著作集全体の構成上、他に適当な巻がありませんので、本巻の「附論」として取り上げておきます。最後に残る「ペトロの手紙U」は、ペトロの名で書かれ、「ペトロの手紙T」に続く第二の書簡と名乗っていますが、「ユダの手紙」との関連が強く、どこで扱うか決めるのが難しい書簡です。本著作集では便宜上、この「附論」に入れておきます。これで、本著作集は新約聖書の全書簡を取り上げたことになります(「ヨハネ黙示録」も手紙の一種として、この「全書簡」に入れておきます)。