市川喜一著作集 > 第13巻 パウロによる福音書 ― ローマ書講解U > あとがき

あとがき

 本書は、著者の個人福音誌「天旅」に連載した「パウロによるキリストの福音」シリーズのローマ書講解の後半部(ローマ書九〜一六章)を一冊にまとめたものです。先にローマ書の前半部(一〜八章)を扱った『パウロによる福音書―ローマ書講解 T』を刊行しましたが、それと合わせて、本書で著者のローマ書講解が完結します。
 ローマ書全体の講解は、「天旅」二〇〇一年6号から二〇〇四年6号まで、一九回にわたって連載しました。その連載が完了したときに、次のような「あとがき」をつけましたので、それをもって本書の「あとがき」とします。

 「ローマ書講解」を終えて
 わたしは二五歳の時に独立伝道を開始し、七三歳になる現在まで、聖書の講話を中心に、キリストの福音を伝え、また集会で講じてきました。その間、自分の福音理解を確認するためにも、キリストの福音のもっとも基本的で包括的な提示であるローマ書を繰り返して学び、また集会で講じてきました。集会の聖書講話では、ローマ書を十年に一度取り上げることにし、三十歳代、四十歳代、五十歳代、六十歳代の四回講じてきました。最後の六十歳代後半に行いましたローマ書講話では、自分で納得できる翻訳で読みたいと願い、ギリシア語原典からの翻訳にやや詳しい注をつけたテキストを用意して、それを基に講話を進めました。今回連載した「ローマ書翻訳と講解」は、その時の翻訳と注を用いて、新たに書き起こしたものです。これがわたしのローマ書講話の最終版になると思います。
 わたしは、自分の著作を主の問いに対する答案として書いています。主は律法学者(聖書学者)に、「律法(聖書)に何と書いてあるか。あなたはそれをどう読んでいるか」と問いかけておられます(ルカ一〇・二六)。わたしは聖書学者ではありませんが、主の民の一人として、どのように小さい者であっても、自分に与えられた賜物と立場に応じて、この問いに対する答案を出さなければならないと感じ、自分が聖書をどう読んでいるかを告白するつもりで、福音講話や聖書講解を書いてきました。今新約聖書の中心的な位置を占めるローマ書の講解を書き終えて、五十年にわたる信仰生活の決算書を出した心境です。この答案の採点は主がされることです。
 採点は主に委ねて、このような貧しい答案を印刷して世に出すのは、わたしなりに生涯をかけて書き上げたこの講解を、世に対する(この時代に対する)わたしの証言として、また後の世代に遺言として残すためです。それぞれの時代に偉大な証人たちがローマ書の講解を書き残してきました。歴史を画した先人たちの偉大な作品には較べるべくもありませんが、二十世紀後半の日本でキリストにあって歩んだ一人の証言を、神の救済史という大路の路傍に、一つの小石としてそっと置いておくものです。
 もちろん新約聖書はローマ書だけではありません。まだまだ書くべき答案は多く残されています。それを書き上げる時間が、恵みとして与えられることを祈っています。(二〇〇四年十一月)

 本著作集における「パウロによるキリストの福音」シリーズは、前著『パウロによるキリストの福音T、U、V』の「あとがき」に繰り返し書きましたように、京都聖書学研究所における「新約原典研究会」での議論に、直接または間接に多くを負っています。この研究会では一九八六年以来ずっとローマ書を扱ってきました。それから一八年間にわたってローマ書の原典一節ごとに徹底的に議論して、現在やっと一二章に入っているところです。それだけに、ローマ書に関してはとくに、この研究会諸氏の信仰と学識にどれだけ教えられ啓発されたか計り知れません。本書は、基本的には著者の信仰告白的な作品ですから、その内容については著者一人の責任ですが、研究会諸氏の助けがなければ生まれえなかったものです。この研究会は現在、久野晋良氏(大阪経済大学名誉教授、ギリシア哲学専攻)、私市元宏氏(甲南女子大学名誉教授、英文学・英米宗教史専攻)、水垣渉氏(京都大学名誉教授、基督教学担当)および著者の四名で進められていますが、本書の出版にあたって改めて諸氏に深甚の謝意を表します。
 なお、今回も木内正一氏に校正の労をとっていただきました。その労に対して心からお礼を申し上げます。

  二〇〇五年 九月一五日
                    市 川 喜 一




著者略歴  市川 喜一 (いちかわ きいち)
1930年 京都市に生まれる
1951年 京都工業専門学校機械科(旧制)卒業
1955年 京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科入学
     学部在学中、フィンランド宣教師の集会で入信、受洗
     以後、文学部哲学科基督学科(有賀鉄太郎教授)の聴講生
1956年 大学院中退、独立伝道開始
     59〜69年、小池辰雄氏の「キリスト召団」の運動に参加
     京都・大阪など関西各地、小諸などで聖書講義の活動
1986年 個人福音誌「天旅」を発刊、現在に至る
2000年 開設したホームページに「市川喜一著作集」を上梓

著書
 「聖書百話」(2002)      「キリスト信仰の諸相」(2002)
 「マルコ福音書講解T」(2002) 「マルコ福音書講解U」(2002)
 「神の信に生きる」 (2003)
 「マタイによる御国の福音―山上の説教講解」(2003)
 「マタイによるメシア・イエスの物語」(2003)
 「教会の外のキリスト」(2004)
 「パウロによるキリストの福音T」(2004)
 「パウロによるキリストの福音U」(2004)
「パウロによるキリストの福音V」(2005)
 「パウロによる福音書―ローマ書講解 T」(2005)

ホームページ「天旅」のURL  http://tenryo.net



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│ パウロによる福音書―ローマ書講解 U │
│  2005年12月1日   第1版第1刷 発行 │
│   2015年11月29日 第2版第1刷 発行 │
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│ 著 者    市川 喜一 │
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│ 発 行 天旅出版社 │
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│ 発 売    ココデ出版 │
│   〒221-0022 横浜市神奈川区守屋町 3-9 │
│ 印刷・製本  株式会社オーピーエス  │
│ │
  「市川喜一著作集」 第一期

1「聖書百話」(2002)      
2「キリスト信仰の諸相」(2002)
3「マルコ福音書講解T」(2002) 
4「マルコ福音書講解U」(2002)
5「神の信に生きる」 (2003)
6「マタイによる御国の福音―山上の説教講解」(2003)
7「マタイによるメシア・イエスの物語」(2003)
8「教会の外のキリスト」(2004)
9「パウロによるキリストの福音T」(2004)
10「パウロによるキリストの福音U」(2004)
11「パウロによるキリストの福音V」(2005)
12「パウロによる福音書―ローマ書講解 T」(2005)
13「パウロによる福音書―ローマ書講解 U」(2005)

  「市川喜一著作集」 第二期

14 「パウロ以後のキリストの福音」(2007)
15 「対話編・永遠の命―ヨハネ福音書講解T」(2006)
16 「対話編・永遠の命―ヨハネ福音書講解U」(2008)
17 「ルカ福音書講解T」(2009) 
18 「ルカ福音書講解U」(2011)
19 「ルカ福音書講解V」(2013)
20 「福音の史的展開T」(2010)
21 「福音の史的展開U」(2012)
22 「続・聖書百話」(2014)

  各巻の内容紹介と購入方法については、「天旅」ホームページの「出版案内」でご覧ください。
「天旅」ホームページは「市川喜一」で検索すれば出てきます。