市川喜一著作集 > 第13巻 パウロによる福音書 ― ローマ書講解U > 第8講

第四部 実践的勧告

はじめに―第四部への序言

 パウロはこれまでの手紙においても、まずキリストにあってわたしたちが受けている救いの現実がどのようなものであるかを語った後で、その救いにあずかっている者としてどのように歩むべきかという実際的な勧めをするのが普通でした。まず福音の提示があり、その後に実践的な勧告が続くというパターンです。このローマ書も、その基本的なパターンに従っています。
 パウロは、第一部(一・一八〜五・一一)で信仰による義を主張し、第二部(五・一二〜八・三九)でキリストにあって御霊の命に生きる現実を語り、第三部(九〜一一章)でイスラエルと異邦人からなる救済史の奥義を示しました。そのすべてにおいて「恩恵の支配」という原理が貫徹していました。そのように福音の提示をすべて終えて、最後にこのキリストにあって生きる者たちが、「恩恵の支配」の下でどのように歩むことになるのか、その実践的な勧告に入ります。その勧告が第四部(一二・一〜一五・一三)を構成します。
 勧告は大きく二つの部分に分かれます。第一はキリストにある者の歩みについての一般的勧告(一二章と一三章)、第二はローマ集会の特殊な状況に向けられた勧告(一四章と一五章一三節まで)となります。