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まえがき

 本書は、著者が各地の集会で行った福音講話を要約筆記した文章を集めた講話集です。先に、その講話の中から十五編を選んで「キリスト信仰の諸相」と題する福音講話集を出版しましたが、今回、福音講話集の第二編として本書をお届けします。
 本書はT〜Yの六部から成っています。はじめに各部の主旨を述べておきます。各部は独立していますので、どの部から読み始めていただいてもかまいません。

 第T部「神の信に生きる」は、著者の信仰の基調を語る二編を集めました。自分の信仰を捨て、神の信実だけに依り頼んで、神の言葉を聴き、神の言葉の現実に生きようとする姿勢を示そうとしています。本書の書名「神の信に生きる」は、この著者の信仰の基調を掲げたものです。
 第U部「聖書と人生」は、第T部で述べた神の信実だけを礎とし、聖書を神の言葉として受けとめて生きる人生の具体相を、信仰と愛と希望の三つの視点からまとめた三回の講話を集めています。

 第V部以降の諸編は、福音書またはその一部、あるいはその中の一節を主題にした福音講話をまとめています。
 第V部「福音書の福音」は、福音書の成立とその性格とか内容を概説する、福音書序論のような講話です。福音書はイエスの伝記ではなく、キリストの福音を世界に提示する文書であることを明らかにして、イエスの物語(おもに共観福音書)の中に響いている「キリストの福音」を聴き取ろうとする試みです。
 第W部「永遠の命の道」は、ヨハネ福音書の前半(一二章まで)で語られているイエスとの対話の中から、代表的な三カ所(三章、六章、一一章)を選び、ヨハネ福音書の主題である「永遠の命」に至る道を、その出発点、旅路、到達地という三つの視点からまとめた講話を集めています。なお、その三編に、「永遠の命と復活」との関係を論じた補講一と、復活信仰の聖書的基礎を明らかにするための補講二「救済史の構造」の二編を附しています。
 第X部「福音書ところどころ」は、福音書の中の一節を主題として語った福音講話七編を集めています。
 第Y部「主の祈り」は、キリスト者の生活の基本である「主の祈り」のそれぞれの祈りを詳しく講解した七つの講話を集めています。とくにパンに関する祈りの講解に、著者の重要な主張が展開されています。

 以上二五編の福音講話は、いずれも著者の個人福音誌「天旅」とキリスト福音会の福音誌「アレーテイア」に発表されたものを集めたものです。発表の福音誌と日付はそれぞれの講話の末尾に記しておきます。

 このささやかな福音講話集が読者のお一人ひとりの信仰の歩みに役立つことを祈って、お手元にお届けします。

   二〇〇三年 一月
                    市 川 喜 一